くらすひ

ぼんやりしているくらしの雑記

沈丁花

会社までは電車とバスに乗ってゆく。駅前がちょっぴり繁華なだけで、バスに乗って会社に近づくにつれ、マンションが少なくなりぽつぽつと民家が見えてきて、なだらかな田園や林が窓の外にあらわれたり、消えたりする。その合間に、わたしでも知っているような有名な企業の大きな工場が、ぼん、とある。

毎日とても寒くて、そしてねむたくて、いつもバスの中、目を閉じていると夢をみてしまうことも、しばしば。瞼をこじあけて、眠気を振り払おうと強くまばたきをしているとき、iPodをシャッフルして聴いていた耳に流れてきたのは、くるりの「沈丁花」でした。

沈丁花

沈丁花

 

かろやかで、もの悲しい、ギターの音が鳴るイントロ。 沈丁花は、どんな花だったかな、とぼんやり思います。「沈む」という漢字がついている花の名前、とてもいいな、と思いながら聴いていると、やがてバイオリンの音が入って、心地よくて胸がせまくなる。

車内は混み合っているので、時間が経つにつれ、窓ガラスが人々の呼気で曇ってゆく。わたしは窓際の座席に沈み込んで、ガラスの外をじっとみつめました。そこを流れてゆくもの。どっしりした瓦屋根の家々。落ち葉をかき集めて、しゃがみこんでいるおじいさんの背中。ビニールハウス。工事現場と、そこにある丸い土管(ドラえもんの公園を思い出す。) 朽ち果てた、木造の建物。屋根は抜け落ち、柱もなにもかもくずれているその建物をよく見ると、扉のガラスに「串カツ」と書いてある。元々は串カツ屋さんだったのかな。いつ頃、こんな姿になったのか、昔は、ここで働いていた人がいたのか、ここで串カツにソースをつけていた人がいたのか、考えてもどうしようもないことを、想像しました。

そうこうしているうちに、くるりの「沈丁花」は終わって、次の曲がシャッフルされて聞こえてきて、わたしは会社に到着する。イヤホンを耳から外して、早歩きで、時に小走りでオフィスへと向かう。(いつも、ギリギリ出勤。)

あとから「沈丁花」がどんな花なのか調べてみたら、「香木の沈香のような良い匂いのする、丁子(クローブ、香辛料の一種)のような花をつける」とある。淡い紅色のちいさな花が、手鞠状に咲くようです。花言葉は「不死」「永遠」「栄光」。すごい花です。2月末から、3月に花が咲くので、これから、ちょうど咲くのですね。

 息子よ おまえが生まれる 少し前
 希望のすべては朽ち果てて
 みんな泣いていたんだよ

と言う歌詞を思い出し、朽ち果てた串カツ屋さんを思い出し、何もかも枯れ果てている冬の景色を思い出す。だけど、もうすぐ沈丁花も咲くし、春もやってきます。とても、たのしみ。